非上場株式時価算定における国税庁見解

令和2年3月24日付 最高裁判決を受けて所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)の明確化が図られました。

資産課税課情報令和2年9月30日

この通達改正のパブリックコメントで意見聴取がなされた際、本来の論点とは直接関係はありませんが、非上場株式の時価算定(「小会社」とみなして評価する場合)に関して興味深い質問があがりました。

今回のブログでは、この質問に対して公表された国税庁見解(上記リンク先P4別添)をご紹介します。

「小会社」とみなして評価するとは?

非上場会社の株価(相続税評価額)は、会社規模に応じて、それぞれAの方法を原則とし、納税者の選択によりBの方法で評価することもできます。会社規模が小さいほど純資産価額を重視した評価となっています。

類似業種比準価額よりも純資産価額の方が株価が高くなる傾向にありますので、大会社や中会社はAを、小会社はBを選択して評価することが一般的です。

会社規模AB
大会社類似業種比準価額純資産価額
中会社類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)純資産価額
小会社純資産価額類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5
財産評価基本通達179 ※L=中会社(大)0.9、中会社(中)0.75、中会社(小)0.6

問題となるのは、法人が絡む取引や金庫株の際に用いられる株価(いわゆる法人税法上の時価・所得税法上の時価)を算定する場合で、中心的な同族株主が有する株式については、会社の規模に関係なく、「小会社」に該当するものとして評価する旨が所得税基本通達59-6に定められています。(法人税基本通達9-1-14にも同様の記載あり)

このような取扱いは、相続がその発生時期を計ることができない静的な事象であるのに対し、法人が絡む取引は動的なものであることが関係しています。支配株主にとってその会社の株式の価値は、会社規模に関係なく、その会社の純資産価額と切り離しては考えられないものであり、支配株主が動的な取引を行う場合には、相続税評価額のように評価の安全性を考慮する必要はなく、純資産価額も一定程度評価に反映させるべきとの考えに由るものと思います。

所得税基本通達59-6(改正後)

(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株 主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を 含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下 この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」は、23~ 35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の⑷ニに定める「1株 又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」について は、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17 「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の 評価》の例により算定した価額とする。
⑴ 財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した 株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び 189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達 188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替える ほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株 式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会 社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通 達188の⑴から⑷までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前 の議決権の数により判定すること。
当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189 -3の⑴において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲 渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達 188の⑵に定める「中心的な同族株主」に該当するときは当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
⑶ 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所 に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定め る「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当た り、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
⑷ 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額に よって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対 する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

国税庁見解1 類似業種の株価等に乗ずる斟酌率

Q
本来の大会社を小会社とみなして評価する場合、この類似業種比準価額を算定する際の斟酌割合も小会社の0.5を使用するのか、本来の会社規模である0.7を使用するのか。
A

類似業種比準価額を算定する際の斟酌割合は評価会社の会社規模に応じたものとする。

会社規模が大会社に該当する会社でも、中心的な同族株主が有する株価(いわゆる法人税法上の時価・所得税法上の時価)を算定する場合には、小会社に該当するものとみなして評価します。

つまり、類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5の折衷割合で評価するということになります。

類似業種比準価額の算定に当たっては、こちらも会社規模に応じて斟酌割合(譲渡制限により流動性が乏しいことに対する掛け目)が決まっており、大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5です。これを類似業種の株価等に乗ずることで類似業種比準価額が算定されます。

斟酌割合

類似業種比準価額と純資産価額の折衷割合とは異なります。論点となるのは、この斟酌割合です。

従来、実務においては以下の認識であったかと思いますが、国税庁は少数説を支持しました。

有力説:素直に通達の規定どおり、会社規模が大会社であろうが「小会社」に該当するものとして計算するのであるから、類似業種比準価額算定上の斟酌割合も小会社の割合を採用
少数説:小会社に該当するものとして類似業種と純資産の折衷評価となるが、類似業種の斟酌割合は実態を現す実際の会社規模の数値(大会社なら0.7)を採用すべき

類似業種比準価額の斟酌割合は低い方が株価が低くなるため、有力説の方が納税者にとって有利です。

過去に少数説で評価している株価算定書を見たこともありますが、多くの税理士は有力説で評価していたと思います。最近受けた国税OB税理士の研修で最近は少数説が盛り上がってきているというお話だったので、懸念はしていましたが、今回の国税庁見解を受け、今後の実務においては少数説が採用されていくことになると思います。

国税庁見解2 評価対象会社が有する子会社の評価

Q
評価会社が子会社にとって「中心的な同族株主」に該当する場合、その子会社株式の価額は「財産評価基本通達 178 に定める『小会社』に該当するものとして評価するのか。
A

子会社が「小会社」に該当するものとして「純資産価額方式」又は「類似業種比準方式と純資産価額方式との併
方式」による価額とすることが相当である。

支配権が及ぶ子会社であれば、子会社の評価についても「小会社」に該当するものとして評価した金額を、評価対象会社における純資産価額に取り込むことになります。

この記事を書いた人

押渡部 優子