相続登記の義務化と登録免許税の免税措置

 相続により不動産を取得した場合、相続登記をする際に、原則として不動産の価額(相続開始年の固定資産税評価額)×0.4%の登録免許税が課税されます。

 ちなみに売買や贈与による所有権移転登記の登録免許税は不動産の価額(所有権移転時の固定資産税評価額)×2.0% です。相続による不動産取得は人の意志に関係なく受動的に開始する取引であるため、税率も優遇されています。

 それでも相続登記が未了のまま放置されている不動産は年々増加しており、所有者不明土地問題の一要因とされている相続登記未了の土地を生じさせない対策として、ここ数年で税制・不動産登記法が順次改正されています。

 以下、改正内容について時系列でご紹介いたします。

免税措置の創設(平成30年度税制改正)

⑴ 相続登記が未了で数次相続が発生している土地の免税

 個人が相続により土地の所有権を取得した場合において、その個人がその相続によるその土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間にその個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。

⑵  行政目的のため相続登記を推進する必要のある土地の免税

 個人が土地について相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、その土地が相続による土地の所有権の移転の登記の促進を特に図る必要があるもの※Aであり、かつ、その土地のその登記に係る登録免許税の課税標準たる不動産の価額(=固定資産税評価額)が10万円以下※Bであるときは、平成30年11月15日※Cから令和3年3月31日までの間に受ける当該土地の相続による所有権の移転の登記については、登録免許税を課さない。

 ※A 都市計画法第70条第1項に規定する市街化区域内に所在する土地以外の土地のうち市町村の行政目的のため相続による土地の所有権の移転の登記の促進を特に図る必要があるものとして法務大臣が指定するもの(旧措令44条の2)

 ※B 共有持分の場合には、持分ごとに判定

 ※C 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号)の施行の日

不動産登記法改正による相続登記の義務化

 令和3年4月28日に公布された「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)」を根拠として、不動産登記法が改正され、相続登記が義務化されました。

 不動産を相続により取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請が義務づけられ、正当な理由のない申請漏れは10万円以下の過料の罰則対象となります。

不動産登記法(施行日:令和6年4月1日)

(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

 法律の施行日は令和6年4月1日ですが、経過措置により、施行日以前に開始した相続にも遡及適用されます。ただし、3年以内のカウントは施行日と要件充足日のいずれか遅い日からとなるため、既に開始している相続についても法律施行日から3年以内に登記申請が行われていれば問題ないとのことです。

 詳細については、法務省のこちらのページをご参照ください。

 新旧対照条文

相続登記の義務化を受けての免税期限の延長と拡充(令和3年度税制改正)

⑴ 相続登記が未了で数次相続が発生している土地の免税

① 適用期限を令和3年3月31日から令和4年3月31日まで延長

 所有者不明土地等問題の解決に向けて、相続発生時における登記申請の義務化、新たな職権的登記の創設等を含めた不動産登記法等の見直しについて次期通常国会に関連法案を提出する方向で検討が進められていることを受け、令和4年度税制改正において必要な措置を検討するため、適用期限が延長されました。

② 相続登記未了の土地の発生防止をより効果的なものとするため、土地の表題部所有者の相続人が受ける所有権の保存の登記をこの特例の対象に加える

⑵  行政目的のため相続登記を推進する必要のある土地の免税

① 適用期限を令和3年3月31日から令和4年3月31日まで延長

 上記(1)と同じ理由

さらなる免税期限の延長と拡充(令和4年度税制改正)

⑴ 相続登記が未了で数次相続が発生している土地の免税

① 適用期限を令和4年3月31日から令和7年3月31日まで延長

⑵ 少額の土地を相続により取得した場合の登録免許税の免税措置行政目的のため相続登記を推進する必要のある土地の免税

① 適用対象となる土地の範囲に、市街化区域内に所在する土地を加える

 市街化区域外の一定の土地に限られていたものについて制限を解除。金額基準のみで判定OKに。

②  令和3年4月1日以後に受ける登記について、免税となる不動産の価額を10万円から100万円に引き上げ

③  適用期限を令和4年3月31日から令和7年3月31日まで延長

相続による土地の所有権の移転登記等に対する登録免許税の措置について

0018003-081-01.pdf (nta.go.jp)

この記事を書いた人

押渡部 優子