出国する年の株式譲渡は一般口座もしくは特定口座<源泉徴収なし>で住民税を節税

本題に入る前にまず住民税の仕組みから説明いたします。

住民税は前年所得課税

住民税は、原則として所得の生じた年の翌年1月1日に国内に住所を有する者に対し課税されます。課税ベースが前年の所得となるため「前年所得課税」です。

2020年の所得に対する住民税の納税通知書は、2021年5~6月頃に自治体から納税者のお手元(給与天引きの方は会社宛て)に届いています。納税については4期に区分(給与天引きの方は毎月徴収)され、第4期の納期限は翌年1月末を目途に設定している自治体が多いため、最終的に2020年の所得に対する住民税の納税が完了するのは2022年1月末頃ということになります。

これに対し、所得税は2020年の所得について、2021年3月15日※までに申告納税が原則(給与天引きの方は毎月天引きのうえ年末調整で精算)です。課税ベースがその年の所得となるため「現年所得課税」です。

※実際には2020年の申告期限はコロナで2021年4月15日まで延長しました。

担税力という点から考えても、本来は所得の発生と税負担の時期を乖離させるべきではありません。従来から住民税についても所得税と同様に「現年所得課税」を採用すべきとの議論はなされていますが、課税団体である自治体や年末調整を行う企業の事務負担への影響がネックとなっているようです。今後、税務業務のデジタル・IT化が進めば、住民税も「現年所得課税」に変更されていく可能性が高いでしょう。

ただし、実は現行でも住民税の一部は現年所得課税が行われています。

現年所得課税の住民税とは?

住民税課税の原則は前年所得課税ですが、以下の特別徴収(住民税相当の天引き≒源泉徴収)に限っては、それぞれ課税対象の支払の際に課税が成立します。

課税対象 課税団体 徴収時期
預貯金・公社債等の利子等利子等の支払い事務を行う営業所所在地の都道府県 支払の際
上場株式等の配当等 支払を受ける者の支払時の住所地の都道府県 支払の際
上場株式等の株式等譲渡所得支払を受けるべき日の属する年1/1時点の住所地の都道府県 支払の際
退職手当等支払を受けるべき日の属する年1/1時点の住所地の自治体 支払の際
出典:総務省 (参考2)金融資産性所得に対する個人住民税の課税時期と課税団体について

年の途中で出国した場合の株式譲渡益に対する住民税

前置きが長くなりましたが、ここからようやく本題です。

2021年10月に出国した場合、翌年2022年1月1日には国内に住所を有していないため、本来であれば2021年中の株式譲渡益に対して住民税は課税されません。

しかしながら、多くの方は原則確定申告不要の特定口座<源泉徴収あり>で取引をされていると思います。特定口座<源泉徴収あり>で上場株式等の取引をして譲渡益が出た場合、譲渡益に対する所得税・住民税が源泉徴収されます。前述のとおり、源泉徴収される上場株式等の譲渡所得については譲渡代金受取時に「現年所得課税」となるため、出国後の翌年に還付請求をしても特別徴収された住民税相当額は還付されないため要注意です。

出国の見通しが立ち、出国前に株式を譲渡する予定がある場合には、事前に証券口座の種類を変更(源泉徴収されない一般口座or特別口座<源泉徴収なし>)しておく必要があります。

ちなみに、前回のブログで少しご紹介した国外転出時課税ですが、税制創設時には住民税についても出国時における含み益課税の検討がなされたようですが、現在まで導入には至っておりません。

[参考]証券口座の種類

証券口座を開設の際は、税金の申告納税の仕組みにより、「特定口座<源泉徴収あり>」、「特定口座<源泉徴収なし>」、「一般口座」の3種類から選択します。

源泉徴収あり・なしの選択は「譲渡損益」に対応するものであり、配当金については、NISA口座を除き、上記3種類の口座のいずれを選択した場合でも、必ず源泉徴収されます。

口座種類メリットデメリット
特定口座    源泉徴収あり〇税金計算・納税は口座内で自動的に行われるため、原則確定申告不要※▲譲渡益が生じた場合、売却代金から源泉徴収後の残金が入金される。
特定口座
源泉徴収なし
〇源泉徴収されないため、売却代金全額を次の投資に充当できる。
〇給与所得者の場合、給与所得及び退職所得以外の所得の合計が20万円以下の場合は確定申告不要のため、株式譲渡益が20万円以下であれば特定口座<源泉徴収あり>よりも株式譲渡所得税の負担が軽くなる。
▲年間通算で譲渡益が出た場合、確定申告が必要だが、税金計算は年間取引報告書が発行され、それを転記するのみの比較的簡単な手続き。
▲個人事業主や75歳以上の後期高齢者などの国民健康保険加入者は確定申告により国民健康保険料の額が影響が出る場合がある。(厚生年金加入者の健康保険料は給与報酬額のみをベースに算定されますが、国民健康保険は申告した世帯総所得をベースに算定のため)
一般口座〇非上場の未公開株取り引きが可能。
〇源泉徴収されないため、 売却代金全額を次の投資に充当できる。
〇給与所得者の場合、給与所得及び退職所得以外の所得の合計が20万円以下の場合は確定申告不要のため、株式譲渡益が20万円以下であれば特定口座<源泉徴収あり>よりも株式譲渡所得税の負担が軽くなる。
▲個人事業主や75歳以上の後期高齢者などの国民健康保険加入者は確定申告により国民健康保険料の額が影響が出る場合がある。(厚生年金加入者の健康保険料は給与報酬額のみをベースに算定されますが、国民健康保険は申告した世帯総所得をベースに算定のため)
▲▲年間通算で譲渡益が出た場合、確定申告が必要で、年間取引報告書も自分で作成する必要(つまり取得時のコスト等を独自に記録しておく必要あり)があるため、確定申告の手続きは煩雑。

※他の証券会社の特定口座と損益通算をしたい場合や、譲渡損の繰越しを希望の場合には確定申告をすることで損益通算による還付や譲渡損の繰越しが可能。

この記事を書いた人

押渡部 優子