3年内贈与加算の落とし穴

相続開始3年内の贈与が相続財産に足し戻されることをご存知の方は多いと思いますが、いざ相続が発生した際に想定外の事態が生じることがあります。

生前にコツコツ行った贈与が無駄にならないように、3年内贈与加算の規定について今一度確認してみましょう。

3年内贈与加算とは

相続・遺贈で財産を取得した者が、相続開始3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、贈与により取得した財産の価額を相続財産に足し戻して相続税を計算する必要があります。

これは相続直前での駆け込みの相続税対策を防止する規定です。余談ですが、相続の世界では何かと3年を目安に直前対策を縛る傾向にあります。

相続・遺贈で財産を取得した者を対象としてるため、法定相続人に限りません。

したがって、孫でも他人でも遺贈で財産を取得している人は3年内贈与加算の対象となります。

対象となる贈与は、贈与税申告の有無は関係なく、贈与税非課税枠110万円以下の贈与も対象です。ただし、既に支払っている贈与税がある場合には、相続税額から控除できますので贈与税と相続税の二重課税にはなりません。

3年内贈与加算の確認の際に贈与税申告漏れが発覚することがあります。その場合には速やかに贈与税の期限後申告書を提出することをお勧めしています。

ちなみに相続開始日が2020/9/8の場合、3年前の応当日となる2017/9/8以降に成立した贈与が対象です。

相続税法第19条

(相続開始前三年以内に贈与があつた場合の相続税額)
第十九条 相続又は遺贈により財産を取得した者当該相続の開始前三年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第二十一条の二第一項から第三項まで、第二十一条の三及び第二十一条の四の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く。)に限る。以下この条及び第五十一条第二項において同じ。)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第十五条から前条までの規定を適用して算出した金額(当該贈与により取得した財産の取得につき課せられた贈与税があるときは、当該金額から当該財産に係る贈与税の税額(第二十一条の八の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く。)として政令の定めるところにより計算した金額を控除した金額)をもつて、その納付すべき相続税額とする。
2 前項に規定する特定贈与財産とは、第二十一条の六第一項に規定する婚姻期間が二十年以上である配偶者に該当する被相続人からの贈与により当該被相続人の配偶者が取得した同項に規定する居住用不動産又は金銭で次の各号に掲げる場合に該当するもののうち、当該各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める部分をいう。
一 当該贈与が当該相続の開始の年の前年以前にされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該贈与による取得の日の属する年分の贈与税につき第二十一条の六第一項の規定の適用を受けているとき。 同項の規定により控除された金額に相当する部分
二 当該贈与が当該相続の開始の年においてされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該被相続人からの贈与について既に第二十一条の六第一項の規定の適用を受けた者でないとき(政令で定める場合に限る。)。 同項の規定の適用があるものとした場合に、同項の規定により控除されることとなる金額に相当する部分

相続税法基本通達19-2

(相続開始前3年以内の贈与) 法第19条に規定する「当該相続の開始前3年以内」とは、当該相続の開始の日からさかのぼって3年目の応当日から当該相続の開始の日までの間をいうのであるから留意する。

こんな人は注意

相続放棄をしたり、遺言で財産を1円ももらっていない人でも、3年内贈与加算の対象となり相続税の負担が生じるケースがありますのでご注意を。

  • みなし相続財産(生命保険金や死亡退職金)を受け取っている場合
  • 名義保険(保険料負担者:被相続人)の契約者で、被相続人の相続開始時点で解約返戻金がある場合
  • 相続時精算課税贈与を受けている場合(精算課税贈与の選択年が相続開始3年以内の部分)
  • 死因贈与契約により財産を取得した場合

加算する必要のない贈与

相続開始3年内の贈与であっても以下の贈与については、加算の必要はありません。

  • 贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
  • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

上記の教育資金贈与や結婚子育て資金贈与のうち、相続開始時に資金残額がある場合の相続財産への足し戻しについては、下記リンク先をご参照ください。

No.4512 直系尊属から教育資金及び結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度の主な相違点

https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4512.htm

この記事を書いた人

押渡部 優子