名義保険の相続税(保険契約者≠保険料負担者)

名義保険とは

名義保険とは、契約者と保険料負担者が異なる保険契約をいいます。

このような保険について、名義人である契約者が被相続人でないことを理由に、相続財産から除外できると考える方が多いようですが、保険契約の原資が被相続人である以上、 契約者が当該保険契約を相続する前提で相続税の計算対象となります。

相続税法の世界では保険の名義人、つまり契約者が誰であるかは関係ありません。重要視されるのは、「その財産の原資は誰か」です。

一方、私法上は、あくまで保険契約の地位は名義人である契約者に帰属します。

つまり、名義保険は「生命保険契約の相続税(契約者=保険料負担者)」でご紹介したみなし相続財産に該当します。

ややこしいですが、保険事故(=保険金支払い事由)未発生の「生命保険契約に関する権利」の取り扱いとして、契約者=保険料負担者の場合には、本来の相続財産となりますが、契約者≠保険料負担者の場合には、名義保険として、みなし相続財産に区分されるため、課税について相続税法第3条1項3号で別途規定しています。(保険事故が発生している死亡保険金については同法第3条1項1号)

相続税法第3条1項3号(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)

第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。

三 相続開始の時において、まだ保険事故(共済事故を含む。以下同じ。)が発生していない生命保険契約(一定期間内に保険事故が発生しなかつた場合において返還金その他これに準ずるものの支払がない生命保険契約を除く。)で被相続人が保険料の全部又は一部を負担し、かつ、被相続人以外の者が当該生命保険契約の契約者であるものがある場合においては、当該生命保険契約の契約者について、当該契約に関する権利のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で当該相続開始の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

具体例

下記①と②の保険契約について、取り扱いの違いを確認してみましょう。

被保険者≠被相続人のため、相続開始時点では保険事故は未発生です。

契約者:保険料負担者:被相続人被保険者:、受取人:

②契約者:被相続人、保険料負担者:被相続人、被保険者:、受取人:

<遺産分割協議上の取り扱い>

①は名義人である契約者が被相続人でないため、名義人の財産として、被相続人死亡の際は遺産分割協議の対象にはならず、相続の名義変更手続きも不要(保険料支払いの被相続人口座は凍結されてしまうため振替口座の変更は必要)です。

②は契約者である被相続人の本来の相続財産として遺産分割協議の対象となります。

<相続税計算上の取り扱い>

①は「名義保険」として、②は「生命保険契約に関する権利」として、それぞれ相続税の計算対象となりますが、相続開始時には保険事故が発生していないため、どちらも相続開始時点の解約返戻金相当額で評価します。

医療保険の場合は?

医療保険は掛け捨てが多く、解約返戻金がまったくないものも多いですが、考え方は同様です。

保険事故未発生の保険契約について、保険料を負担していた被相続人の相続開始時点で解約返戻金がなしのタイプであれば評価額も0です。

ちなみに医療保険は疾病・傷害の第三分野保険で、生命保険会社・損害保険会社どちらでも販売が可能です。

相続税法施行令第1条の2抜粋(生命保険契約等の範囲)

第一条の二 法第三条第一項第一号に規定する生命保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約は、次に掲げる契約とする。
一 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約又は同条第六項に規定する外国保険業者若しくは同条第十八項に規定する少額短期保険業者と締結したこれに類する保険契約

2 法第三条第一項第一号に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約は、次に掲げる契約とする。
一 保険業法第二条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約又は同条第六項に規定する外国保険業者若しくは同条第十八項に規定する少額短期保険業者と締結したこれに類する保険契約

似て非なる保険料相当の贈与

名義保険と混同しやすいものとして、保険料相当の現金贈与があります。

具体的には、親がいったん子供に資金を贈与し、その資金を元手に子供が保険に加入し、保険料を払います。

ただし、下記のような行動は、名義保険と認定される可能性がありますのでご注意を。

  • 子供に所得がないからといって、所得税の生命保険料控除を親で適用してしまう
  • 年間110万円を超えた贈与をしたのに贈与税申告をしていない
  • 保険料の実際の支払いが契約者である子供の口座からでない

なるべく贈与契約を結び、銀行振り込みによる贈与で資金の流れが明確となるようにしていただくのがベストです。

相続税計算の取り扱いの違いについては以下のとおりです。保険料相当の贈与が名義保険と認定された場合と比較しています。

例1)契約者:子、被保険者:親、受取人:子 (親の死亡により保険事故発生)

(保険料相当の贈与)→死亡保険金は相続税の対象※だが、相続開始3年内の保険料相当の贈与については相続財産に足し戻し。

※ただし、子の所得税対象(一時所得)

(名義保険認定)→死亡保険金は相続税の対象(非課税枠は使用

例2)契約者:子、被保険者:子、受取人:子 (親の死亡による保険事故未発生)

(保険料相当の贈与)→相続開始3年内の保険料相当の贈与のみ相続財産に足し戻し。

(名義保険認定)→相続開始時点の解約返戻金相当について相続税の対象(非課税枠の使用不可

この記事を書いた人

押渡部 優子