生命保険契約の相続税(契約者=保険料負担者)

契約者=保険料負担者を前提に、生命保険契約に関する相続税の課税関係を解説します。

基本の考え方

被相続人が保険料を負担していた保険契約には、相続開始時点で保険事故(=保険金支払い事由)が発生しているものとそうでないものがありますが、相続税の計算上は、保険料負担者が被相続人である場合、いずれも相続財産として認識し、それぞれの金額で評価します。

①保険事故が発生しているもの(被保険者=被相続人)

被相続人の死亡を起因として受け取る死亡保険金※の受取額

②保険事故が発生していないもの(被保険者=被相続人以外)

相続開始時点の解約返戻金相当額<財基通214>

※死亡保険金は、後述のとおり、一定の非課税枠があります。

みなし相続財産と本来の相続財産

みなし相続財産とは、本来被相続人の財産ではないものについて、相続税計算上は相続財産とみなして計算の対象とされるものです。

上記①の死亡保険金はみなし相続財産の代表で、死亡保険金は保険金受取人が保険契約に基づき保険会社に対してその保険金を受け取る権利を有しているだけで、被相続人から承継する財産ではありません。

本来の相続財産でないため、遺産分割協議の対象外であり、保険金受取人のみが保険会社へ保険金を請求できます。

しかしながら税務上は保険契約の原資が被相続人であるため、相続税の課税対象とし、その取り扱いを相続税法第3条・第5条で定めています。

一方、上記②の保険事故が発生していない保険契約は、解約した場合、解約返戻金が受け取れる財産価値を有するもの(=生命保険契約に関する権利)であり、保険契約者の地位の承継として本来の相続財産に分類されます。

生命保険契約の課税関係の整理

みなし相続財産となる生命保険契約に関しては、保険事故発生時に課税関係が成立します。

保険金受取人が保険料を負担していない場合には、保険事故が発生した時に、その保険金を保険料負担者から贈与により取得したものとみなされ贈与税の対象となります。<相続税法第5条①>

ただし、被相続人の死亡により死亡保険金を受け取った場合には、保険料負担者である被相続人から死亡保険金を相続により取得したものとみなされて相続税の対象となるため、贈与税の対象にはなりません。<相続税法第5条④、相続税法第3条①一>

被相続人の死亡により、死亡保険金を受け取った場合でも、保険料負担者が被相続人でない保険契約に係るものである場合には、相続税の対象とはなりません。

保険料負担者≠保険金受取人の場合には、保険料負担者から保険金受取人への贈与となりますし、保険料負担者=保険金受取人の場合には保険金収入は受取人の所得税の対象となります。

相続税法第5条1項・4項(贈与により取得したものとみなす場合)

第五条 生命保険契約の保険事故(傷害、疾病その他これらに類する保険事故で死亡を伴わないものを除く。)又は損害保険契約の保険事故(偶然な事故に基因する保険事故で死亡を伴うものに限る。)が発生した場合において、これらの契約に係る保険料の全部又は一部が保険金受取人以外の者によつて負担されたものであるときは、これらの保険事故が発生した時において、保険金受取人が、その取得した保険金(当該損害保険契約の保険金については、政令で定めるものに限る。)のうち当該保険金受取人以外の者が負担した保険料の金額のこれらの契約に係る保険料でこれらの保険事故が発生した時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を当該保険料を負担した者から贈与により取得したものとみなす。

4 第一項の規定は、第三条第一項第一号又は第二号の規定により第一項に規定する保険金受取人が同条第一項第一号に掲げる保険金又は同項第二号に掲げる給与を相続又は遺贈により取得したものとみなされる場合においては、当該保険金又は給与に相当する部分については、適用しない。

相続税法第3条1項1号(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)

第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
一 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

一方、本来の相続財産である「生命保険契約に関する権利」については、上記に定める保険事故発生時のみなし規定による課税は適用されません。

相続税法基本通達(被保険者でない保険契約者が死亡した場合)

3-36 被保険者でない保険契約者が死亡した場合における生命保険契約に関する権利についての取扱いは、次に掲げるところによるものとする(昭57直資2-177改正)
(1) その者が当該契約(一定期間内に保険事故が発生しなかった場合においては、返還金その他これに準ずるものの支払がない生命保険契約を除く。以下(2)において同じ。)による保険料を負担している場合(法第3条第1項第3号の規定により、相続又は遺贈によって保険契約に関する権利を取得したものとみなされる場合を含む。)には、当該契約に関する権利は、相続人その他の者が相続又は遺贈により取得する財産となること。
(2) その者が当該契約による保険料を負担していない場合(法第3条第1項第3号の規定により、相続又は遺贈によって保険契約に関する権利を取得したものとみなされる場合を除く。)には、課税しないものとすること。

財産評価基本通達(生命保険契約に関する権利の評価)

214 相続開始の時において、まだ保険事故(共済事故を含む。この項において同じ。)が発生していない生命保険契約に関する権利の価額は、相続開始の時において当該契約を解約するとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合にはこれらの金額を加算し、解約返戻金の額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額がある場合には当該金額を減算した金額)によって評価する。(平15課評2-24追加)
(注)
1 本項の「生命保険契約」とは、相続税法第3条((相続又は遺贈により取得したものとみなす場合))第1項第1号に規定する生命保険契約をいい、当該生命保険契約には一定期間内に保険事故が発生しなかった場合において返還金その他これに準ずるものの支払がない生命保険契約は含まれないのであるから留意する。
2 被相続人が生命保険契約の契約者である場合において、当該生命保険契約の契約者に対する貸付金若しくは保険料の振替貸付けに係る貸付金又は未払込保険料の額(いずれもその元利合計金額とする。)があるときは、当該契約者貸付金等の額について相続税法第13 条((債務控除))の適用があるのであるから留意する。

非課税の対象となる生命保険金

被相続人が保険料を負担していた保険契約について、被相続人の死亡に起因して死亡保険金相続人が受け取った場合、500万円×法定相続人の数までは非課税となります。

相続人以外の人または相続放棄をした相続人が取得した死亡保険金に対しては非課税の適用はありません。

また、非課税となる死亡保険金には、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金及び払戻しを受ける前納保険料で、保険金とともに受け取るものも含まれます。

相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集(事例⑤参照)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sozoku-tokushu/souzoku-ayamarijireishu29.htm

過去に契約者変更があった場合の相続税申告

単に名義変更をした場合、そのタイミングでは保険事故が発生していないため、贈与税の課税は行われません。

具体的には、被相続人が保険料負担していた保険契約について、相続人に契約者を変更して解約した場合、解約時点で贈与税の対象になります(満期保険金を受け取った場合には満期時)。解約や満期の時点が相続開始時から3年以内であれば3年内贈与加算の対象となり相続財産に足し戻しが必要です。

また、途中解約せずに死亡保険金として受け取った場合には相続税の対象となります。

なお、贈与税や相続税の対象となる部分は、受け取った保険金のうち、前契約者の保険料負担相当部分のみです。

保険会社から税務署へ提出される支払調書

保険会社には支払事由が生じた保険金等について税務署への通知(支払調書の提出)が義務付けられています。

申告漏れの原因となっていた契約者変更については、その捕捉のため、平成30年1月1日以降の変更分より通知の対象となっています。

生命保険契約等の一時金の支払調書(同合計表)

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100041.htm

この記事を書いた人

押渡部 優子